去る3月11日(月)、学研本社ビル3Fにて、中学・高校の教員を対象とした『クリティカル・シンキング』セミナーが開催されました。年度末の繁忙期にもかかわらず、多数の参加者が来場し、教育現場でのクリティカル・シンキングへの関心の高さが伝わってきました。
セミナーは、冒頭、学研教育出版教育ソリューション事業部部長・高島俊文の挨拶に続き、『クリティカル・シンキング』開発担当デスクより、本教材の内容および特色の説明が行われました。
続いて、『クリティカル・シンキング』問題作成主幹である多摩大学教授・白藍塾塾長の樋口裕一先生より、「これからの教育で求められるクリティカル・シンキングとは?」と題した講演が行われました。樋口先生は、まず、この教材を開発したねらいについて、次のように語りました。
「私は、長い間、入試で課される小論文の指導を行ってきました。小論文を的確に書くためには、論理的思考力と自らの考えを発信する力が必要です。発信力は、大学生・新社会人になってからもとても大事なものです。発信するためには、的確に受信しなければなりませんから、これは、まさに課題解決力と言えます。この力を見るには小論文を書かせるのがよいのですが、大学にとって、入試で小論文を課すことは、問題作成や採点の繁雑さに加え、受験生の減少というジレンマもあって、なかなか広がっていきませんでした。
一方で私は、言語操作能力に乏しく、論理的思考ができない子ども、あるいは、社会性がない子どもが多いことも痛感してきました。言語操作能力が低く、社会性がないと、国語も社会もできないということになってしまいます。そこで、なんとかして、こうした力と、先ほど触れた発信力をつける教材をつくりたいと思いました。
このような思いから生まれたのが新教材『クリティカル・シンキング』です。樋口先生は、クリティカル・シンキングと、近年国語教育で重視されているロジカル・シンキング(論理的思考力)の違いについても説明しました。
「本格推理小説の多くは、外界から隔絶された空間を舞台とし、犯人はおしなべて論理的な行動をとり、明確な動機もあります。もちろん、犯人は登場人物のうちの誰かです。しかし、これはあくまでも小説の世界のことであり、現実世界は、そうではありません。関係者はいい加減な行動をとることもありますし、動機がよくわからない場合もあります。現代文の問題というのは、推理小説の世界に似て、人工的に設定されており、正答はその文章の中にあります。このような問題を解くには、論理的に考えて正しい答えを導き出すロジカル・シンキングが求められます。
しかし、現実の課題解決はそうでしょうか? 文章の外にある状況や体験を参照して比較するなどして、答えを出すでしょう。あるいは答えが一つではないかもしれません。与えられた情報以外にも目を向け、知識や経験をフルに使って最適な答えを出す力が必要であり、その力こそがクリティカル・シンキングなのです」
樋口先生は、さらに、今回の教材のカリキュラムの特色を解説します。
「この教材の特色のひとつとしてあげられるのは、クリティカル・シンキングを構成する力を21に分け、それらをロジカル問題とクリティカル問題に分類していることです」
ロジカル問題とは、文脈などを考えて、論理的に正しい答えを導き出す問題です。
基本的には正解はひとつで、与えられている情報の中に答えがあります。
一方のクリティカル問題は、扱われている問題の背景についてさまざまな可能性を推測しつつ、論理的に考えて説得力のある答えを導き出す問題です。
正解はひとつとは限らず、また、与えられた情報の中に答えがあるとは限りません。
例えば『言語調整力』のステップでは、話し言葉を書き言葉に書き換える課題に取り組み、言葉を意識的に捉えさせるというねらいを持っています。むろん、この課題だけで言語調整力のすべてがつくわけではありませんが、この課題を経験したことで、同じような文を見たときに、話し言葉か書き言葉かということを意識するようになります。単に課題の正答を出すだけではなく、意識に刻みこませようというねらいもあるのです。
『複眼力』をつけるクリティカル問題では、答えがひとつではありません。考えさせることを重視し、別の価値観を持つ人が存在することに気づかせます。そして、自分と他人とでは考え方が違って当然だという意識を持たせます」
最後に、樋口先生は、熱意をこめて、この教材のアピールポイントについて、「クリティカル・シンキングを養成することは、日本の教育を改革することにつながり、ひいては社会の役に立つと考えています。多くの先生方に使っていただき、そのご意見をいただくことで、さらによいものにしていきたいと思います」と強調し、講演をしめくくりました。