はじめに

問題作成主幹
  樋口  裕一

かつて、勉強と言えば、やみくもに暗記し、直感的な判断に頼る傾向が強かったように思います。ところが近年、日本の教育でも、論理的に思考して答えを導くロジカル・シンキングが重視されるようになりました。
  これはとても好ましいことです。 与えられた資料を論理的に読み取って正しい答えを導き出す力を養うことが、これからの子どもたちにとっての大きな課題です。  しかし、実際の社会では、それだけでは不十分です。ある出来事に対処する時、与えられた資料を読み取るのは第一歩でしかありません。その出来事にはどのような背景があるか、その結果としてどのようなことが起こる可能性があるのか、それを解決するにはどのような方法があるのかなどについても発想を巡らせることが必要があります。言い換えれば、与えられた資料の中に答えを見つけるのではなく、資料の外の世界に目を向けて、示されている以外の様々な観点を考慮して、いくつもの妥当な答えを導き出す作業が必要なのです。このような多様な観点から考察する思考、クリティカル・シンキングの力があってこそ、思索を深め、より重層的に物事を理解できます。
  この力は実社会で役立つだけではありません。高校入試、大学入試の記述問題や小論文問題では、ある出来事の背景や結果、解決法について考えることが求められます。また、現代文の読解問題においても、文中に書かれていない事柄についての基本知識があってこそ、論理的な読み取りができるのです。それがなければ、いくら論理的に文脈を追いかけても、文章を読み取ることができません。文部科学省が大学入試にクリティカル・シンキングを取り入れるように提唱して以来、その傾向がますます増すことが予想されます。
  ここに示したような、ロジカル・シンキングクリティカル・シンキングの両方の力をつけてこそ、本当の意味でものごとを理解できます。したがって、この二つの力のトレーニングをすること、しかも、楽しみながらトレーニングをし、本人も気づかぬうちにその力をつけることが大事なのです。

プロフィール

多摩大学教授・京都産業大学客員教授・白藍塾塾長。数々のベストセラー参考書で全国の受験生から「小論文の神様」と呼ばれる。代表作『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)は250万部を超える大ベストセラー。『読むだけ小論文』『作文力をつける』(以上、学研)、『ホンモノの文章力』『ホンモノの思考力』(以上、集英社)など著書多数。

白藍塾(はくらんじゅく)
樋口裕一先生が塾長を務める、文章教育の“専門店”。小学生、中学生、高校生、一般と、受講対象者別に作文・小論文の通信指導を行っている。また、小・中・高校・大学の文章教育サポート、学習参考書や教育書の出版企画も手がけている。
http://hakuranjuku.co.jp