推薦のことば

「クリティカル・シンキング」とは、与えられた課題について、背景にあるさまざまな観点を考慮しながら、論理的に考え、説得力のある答えを導く力のことです。
森上教育研究所 所長  森上 展安

 中等教育の成立には宗教教育が基本にあり、今日に至るまで宗教及び哲学が論理のバックボーンをなし人格形成の礎となってきました。 また、高等教育機関の課す、いわゆる大学入試等の選抜にあっても「国語」科の主要なテーマは論理力であり続けているのもご存知の通りです。 しかし、残念ながら今日までのところ、国語科教科書の多くが文芸鑑賞に重きがおかれ、現場の教師は、日々工夫を重ねて論理力をどう鍛え上げるかに多大な労を割かれているのが現状です。 とりわけ近年の著作権のコンプライアンス対策で適切な教材作りに困難を強いられている現状もあります。 それは一方で、欧米の言語教育がプレゼンテーションとそのための論理秩序をくり返しトレーニングしているのとは対照的な事態ともいえます。 今日のグローバル化する世界の論調の中で、我が国の発信力がとみに衰えている遠因もここにあるかもしれません。 この度の論理力と発信力をつける本教材の開発は、現状及び将来を見据えた時宜を得た好企画であり、これを学ぶ生徒の皆様が着実に自らのものとすることができる良さがあります。

安田教育研究所 代表  安田 理

 グローバル社会では、単に英語が話せる、また専門的な知識や技術を持っているだけではやっていけません。異なる背景を持つ世界中の人と議論し、競争し、協力し合いながら仕事を進めていく力、生きていく力が求められます。 その前提となるのが、「自分の頭で粘り強く考えられる思考力」と「相手に伝わるように説明できる表現力」ですが、これまでのわが国の教材は、各学問分野の成果を学校段階に応じて伝達するという機能面から作成されていたために、 受け身の「知識・理解」には有効であっても、こうした主体的な「能力」をつけることには適していませんでした。 ほとんどのことが国内で済んでいた時代にはこれまでの教材での勉強が有効でしたが、これからは、好むと好まざるとにかかわらずグローバル社会でさまざまな文化を持つ人と付き合っていかなければなりません。 生徒が将来、主体的にかつ積極的に自分の人生を生きられるかどうかは、「クリティカル・シンキング」の力があるかどうかに大きく左右されます。そうした意味で、この教材こそ、生徒の将来を拓く「武器」だと考えます。

東京工業大学特任教授/キャリアカウンセラー  増沢 隆太

 欧米のビジネススクールでは、「クリティカル・シンキング」能力は入学評価の対象になっています。 つまり、論理的思考力はビジネスの世界では欠くことのできないものであり、この認識は「世界標準」といえるのです。 かたや、記憶偏重と批判される日本の教育において、論理的思考力は、決定的に欠けているといわれます。 昨今の超氷河期といわれる就職活動において、一流大学の学生でありながら大苦戦する層が、相当な割合で存在します。 同じ大学でありながら、こうした就活の二極化が起こる理由は、まさに論理的思考力の差です。 私の担当する大学院科目『コミュニケーションスキル演習』においては、プレゼン知識やテクニック以上に、いかに論理的思考によって論旨が組み立てられるかに注力しています。 あらゆるコミュニケーションの土台は論理構成能力であり、それがなければ単に情報の羅列かパフォーマンスに陥ってしまうのです。 経団連等、企業が就職においてコミュニケーション力を最も重視するとしていることからも、「クリティカル・シンキング」は、若者のキャリア形成において欠かせない能力であり、幸福な人生に繋がる重要な能力といえるでしょう。